海沿いの道は、とても気持ちが良かった。 こんなにゆっくり、海を眺めていたのはいつ以来だろう。 少し日に焼けた私は、火照った頬を潮風で冷やしていた。 バックシートから流れてくる曲は、知らない歌だけど、とても彼らしいと思った。 しばらく走り、漁港が見えた当たりで車は右に曲がった。 町中から左手に小さなお城が見える。 ようやく傾き始めた太陽を背に、白い壁と黒の瓦のコントラスト。 なんとなく、子供の頃を思い出していた。 上り坂をしばらく走ると左手に川が流れ、やがて山道となった。 右に左に、彼はスムーズに、ゆったりとカーブを抜けていく。 そんな心地よいドライブの中で、私はいつしか眠りに落ちていった。 気がついたのは、小さなホテルの駐車場だった。 えっ、まさか、と思ったが、彼はロビーに入りフロントへ向かう。 私の心の準備はまだ出来ていない。 もちろん、彼はいい人だけど... フロントで彼はキーを受け取ったのか、2階への階段へ私を誘う。 一瞬ためらった私は、心を決めた。 彼が、私の手を取って入った部屋は、ユトリロ、ローランサン、ルノワール、ピカソ、シャガール...、そこは小さな美術館だった。 彼は思ったよりも子供っぽい。 子供のように、私をよろこばすことだけに一生懸命だ。 彼を愛おしいと思っている私がいる。 もう、絵を見てはいない。 素直に愛していると、彼に言おう... |