浜辺のテラスでゆっくり過ごし、すっかりアルコールの抜けた僕は、彼女を、内心自慢のスポーツ・セダンのセカンド・シートへ。 国産自動車メーカーNが造ったこのセダンは、リアに『S』の文字が三つ並んでいる。 FMチューナーさえない車だが、1595ccのツイン・キャブのエンジンは快調だ。 バックシートのカセットラジオからは、自分で選んだ好きな曲ばかり。しかし、彼女には古すぎるのかも知れない。 左手に海を眺めてしばらく走ると、漁港とお城の町に入る。 このお城には、小さな遊園地と動物園がある。 大人が楽しめるものではないが、幼い子供達にはいいだろう。 ふと、彼女を横目で見る。 すましているときはもちろん大人の女だが、笑ったときなどあどけない。 そんな彼女の、子供の時などを想像してみる。 思わずにやけている自分がおかしくなる。 町を過ぎてしばらく国道を走ると、旧街道の曲がりくねった道だ。一人なら、かなりポジティブに運転するだろう。 コーナーは、ドリフトで抜けるより、ギリギリまでホールドするのが好きだった。 でも、今日はゆっくりと、まるでワルツでも踊るように、そしてしなやかに。 スーパー・スポーツと名が付いていても、この車はセダンである。 僕もそろそろ、こんな運転が似合う歳になったのかも知れない。 このまま、高原の小さなホテルを目指す。 もちろん、部屋をリザーブしてあるわけでない。 そのホテルには、小さな美術館がある。 小さいけれど、印象派前後の作品をいくつかまとめて見ることが出来る。 美術クラブに入っていた彼女に、よろこんでもらえると思って... |