疲れ果てたぼくは、都会を後にした。この山裾の古い民家に暮らし初めて、どのくらいの夏と冬を過ごしただろう。 北陸のどんよりとした冬の空が、以外にもぼくの心を癒していった。何十年、この暖炉は人々の生活を見続けてきたのだろうか。いまもぼくは火をくべて、きみを待っている。 きっと、きみはまた新しい恋をして、幸せに暮らしているのかも知れないね。それなら、それが一番いいことだ。 でも、いつかひとりになったとき、何かに寄りかかりたくなったとき、思い出してくれたらいい。ぼくが、ここにいることを。 ぼくは晴れた日には、裏山の神社の石段を登る。そこから遙か日本海を見渡すと、見えるものがある。それは目に見えるものではなくて、心に写るものだ。 誰かが言っていた、 「男に見えて、女に見えないもの」 かも知れない。 そんなことを言うと、きみはきっと、 「女に見えて、男に見えないものもあるわ」 と言うだろう。 そして、ぼくはきみとの生活を思い出す。あの頃のぼくらは、若すぎたのかも知れないね。お互いを思いやっているつもりでも、どこかで傷つけていったのだろう。 そんな風に考えるのは、年齢のせいだけだろうか。 また、冬が来る。日本海の荒波は、雪も音もかき消してしまう。そんな内灘の海岸をひとり歩いてみる。いつか、きみと歩いたことを思い出しながら。 そんな時、吹きつける風の寒さとは裏腹に、ぼくの心は温かくなる。そう、今でもきみを待っている。 いつまでだって、かまわない。 |
■君を待っている --佐野元春-- 寄りかかる ところもなく ひとりの夜に ふるえているならば 過ぎたことは すべて忘れて いつでもここに 伝えてほしい 昔のままのその声で だれのことも 信じられず ひとりの夜に おびえているならば 過ぎたことは すべて忘れて いつでもここに 伝えてほしい 昔のままのその声で 夏が来て 冬が来て 新しい愛に あてがはずれたなら 思い出して ここにいることを 暖炉に火をくべて 君を待っている いつまでだってかまわない 暖炉に火をくべて 君を待っている いつまでだってかまわないぜ |