「もったいぶってて、気取ってて、じめじめしていて、そのくせ百万石の伝統...」、そんな見方も出来る金沢が舞台の小説だ。 「礼儀正しくて、控え目で、お品がよっくて、それでいて男の気持ちを惹きつけてしまう何かを隠している」、そんな《水原由佳》。 こんなセリフを主人公の《滝村奈見子》は、愛と憎悪の相反するものを同時に抱き、《由佳》と《良造》と《金沢》にぶつける。が、交通事故で失明してしまう。 この小説は1979年にドラマ化され、多岐川裕美・近藤正臣・芦田伸介・三田佳子が出演しているという。奈見子:多岐川裕美、良造:芦田伸介、由佳:三田佳子、近藤正臣は峯岸裕也だろう。なかなかいい配役で、ちょっと見てみたいかな。 さて、裕也は小説の中で、奈見子と約束する。「由佳と一度だけ寝て、捨てる」と。そして、奈見子と結婚し、滝村総業の後継者となる。 奈見子は、「金沢の古い絵葉書みたいな風景を、めちゃめちゃにぶちこわしてほしい」と言う。 一方、加賀民芸の店《杏や》は尾山神社横のせまい小路の奥にある。目立たないしもたやで、ショーウィンドーとも言えない飾り窓には、小松砂丘の短冊と古九谷の小壺に季節の花。ここで由佳は、寝たきりの父親の世話をしながら、水引細工を作る。 学生運動で挫折し、帰ってきた金沢。ここは、由佳の墓場であった。自分でそう決めたのだ。 いつか、筒井女史から頂いた白い水引で編んだ女雛。「見る人の心が映る」と言う。良造と会わないと決めた夜、この女雛はなんと淋しい顔をしていたことか... 良造は、支店長の誘拐、娘の事故、事業の拡大、忙しい日々の中、由佳にだけ心の安らぎを覚える。 しかし、裕也が奈見子との約束を果たすためにしくんだ芝居で、由佳は良造と会わないことを決めてしまった。 そんなことを知らない良造は、由佳の心変わりだと自分を納得させる。 しかし、大人の良造は時間を掛け、自分は由佳の一ファンでいいと決め、ひとりの客として杏や行くことを手紙に書く。 その手紙を読んだ日に、由佳は女雛をもう一度見つめ「やさしい顔をしている」と思い、「わたしは生まれ変われるのかもしれない」と思うのであった。 人生にはいろいろなことがある。時が変えるのではない。人が変えるのだ。いや、自分が変えるのだ。いくつになってもそれは変わらない。 背筋をのばして、すっと立ちあがろう。終わりは、はじまりなのだから... |
Data:風花のひと(昭和54年1月小説現代) |
講談社文庫「い-01-28」、昭和58年5月15日発行 |
昭和58年→1983年 |