五木寛之[2002/06/22・Vol.10 さかしまに]



女ともだちは、難しい...

 この文庫本の中には、「さかしまに」「女ともだち」「深夜物語」の3作品が収められている。「深夜物語」は、異色のショート・ショートが十二話であるので、細かく書かない。

 さて、「女ともだち」であるが、海外でたまたま知り合った年代の違う男達のある夜の会話である。この小説は、女性には判らないであろうと思う。微妙な男心が描かれているのだ。
 近年、デリカシーのない女性が多い。そして、ストイックな男は少なくない。これでは、どんな話か判らないだろうが、ようは夢を追い続けるのは男であり、女性の方がより現実的だと言うことだ。反論がある方は、井戸端会議(掲示板)の方へ、ご投稿ください!

 次に「さかしまに」であるが、「さかさまに」ではないのだ。下記は、第二次大戦中に書かれた俳句である。

  〈かの男子 新妻置きて 弾も見き〉
  〈実る今 いくさの御国 理解満つ〉
  〈炭も荷へ 艱難辛苦 里つく日〉

はっきり言って、ハッとしない俳句である。しかし、ここが「さかしまに」なのである。

  〈カノダンシ ニヒツマオキテ タマモミキ〉
これを「さかしまに」読んでみよう。

  〈キミモマタ テキオマツヒニ シンダノカ〉
  〈君もまた 敵を待つ日に 死んだのか〉

こうなると、立派な反戦歌である。同様に他も「さかしまに」すると、

  〈ミノルイマ イクサノミクニ リカイミツ〉
  〈ツミイカリ ニクミノイクサ マイルノミ〉
  〈罪怒り 憎みの戦 参るのみ〉

笑っちゃうのが、下記である。

  〈スミモニヘ カンナンシンク サトツクヒ〉
  〈サクツトサ クンシンナンカ ヘニモミス〉
  〈卑屈とさ 軍人なんか 屁にも見ず〉

 これだけ見ると喜劇かなと思うだろうが、実はそうではない。まぁ、百聞は一見に如かず、読んでご覧じろ。
しかし、「屁にも見ず」と言ったって、「屁」もそう馬鹿にはできない。聞いた話だが、夜中に「屁」で人をおこす人がいるらしい。
ホンマかいな?



Data:さかしまに(昭和50年5月オール読物)
文春文庫「い-01-25」、昭和61年9月25日発行
昭和50年→1975年