五木寛之[2002/05/03・Vol.02 ガウディの夏]



情報と言う新しい≪力≫!

 「この世の中で、≪力≫っていうのは、一体なんだと思います?」(五木寛之著・ガウディの夏・P248)

 これは、堀沢が峰井に六本木の≪すたんど・ぜんな≫で語った言葉。昔は、荒っぽい言い方をすれば≪金:経済力≫と≪暴力:軍事力≫が≪力:ちから≫だった。それに対し、もう一つの新しい未知の≪力≫、それが≪情報≫。そして、その時、口にしていたのは能登の酒とクチコ。
 この『ガウディの夏』と言う小説(角川文庫)には、珍しく「あとがき」が書かれている。そこには、「この小説はミステリーではない。さりとて時代に警告する本でもなく、ましてガウディに関する著書でもない。(中略)読者と一瞬のめまいを共有することができたなら、(後略)」と書かれている。もう10年くらい前の作品だが、今読んでも古くささを感じない。こんなことも「あり!」かも知れないと思ってしまう。

 僕の明確なガウディとの出会いは、この本だと思う。それより前に、何かの映像で出会っていた気がする。しかし、明確に記憶には残っていなかった。この本を読んだしばらく後だったが、今はなき、新宿三越南館でガウディ展を催していた。確かに、「めまい」を感じる。この映像的なめまいを小説として再現するとは、大変な試みであると思う。しかし、形を変えて(視覚から文字、ガウディから情報操作)のこの小説は、エンターテイメントとして抜群だ。

 五木寛之からはいろいろな影響を受けている。小説を読んだお陰で、いろいろな見識が広がった(元が少ないので、すぐに広がる!)。とても、ありがたいことだと思っている。興味のある方は、ぜひ、書店へ。


Data:ガウディの夏
角川文庫「い-07-05」、平成3年3月10日発行
平成3年→1991年