WHISKY物語。Vol.03 HALF ROCK [2009/09/21]



彼の歌声と[Half Rock]と、[Autumn]をB.G.M.にして...

 そのお客さまは、いつも目立たなかった。
ひっそりと、静かに飲んでいる。かと言って、決して暗いわけではない。
きっと、他のお客さまが話しているのを聞くのが好きなのだろう。

 ところがある日、ちょっとした諍いがあった。その時、彼が突然歌い出したのだ。もちろん、この酒場にカラオケはない。カウンターだけの小さな店だもの。そこに響いた彼の歌声は...

 その諍いは、ピタッリとやんでしまった。うまいと言うよりも、なにか心に響く感じだったのである。まるで、ファドでも聴いているようで、もの悲しいような、懐かしいような。

 その彼は、いつも[HALF ROCK]だった。そして、[WHISKY]は余市。
ちょっとクセのある[WHISKY]だ。ピートの香が強く、好みは別れるところ。それを1対1の[HALF ROCK]にして飲む。北海道の生まれなのだろうか。彼は、語らない。

 そして彼は、チーズを好んだ。ここにはいろいろなチーズがあるが、季節限定品のチーズもある。例えば、桜のチーズだ。このチーズは、春先から初夏までの限定だ。ほのかな桜の香り、その割のしっかりした味わい。なかなか、クセになるのである。
そんなチーズの一切れで、幸せになれる。
ひと口[HALF ROCK]を飲んで、更に幸せになる。
そんな、ひとときを彼は楽しんでいるようだ。
でも、彼は目立たない。

 そんな彼の歌声は...