WHISKY物語。 Vol.01 STRAIGHT [2009/09/21]



無口な彼と[Straight]、[Left Alone]をB.G.M.にして...

 そのお客さまは、いつも金曜日の深夜にやってきた。
飲んでいるのかいないのか、無口な彼は[STRAIGHT]を頼む。

 私は、大胆にカットカットされた小ぶりのグラスにWHISKYをそそぐ。
彼は、それを舐めるように飲む。
映画だったら、一気に煽るように飲むのかも知れない。
しかし彼は、一杯の[STRAIGHT]を慈しむように飲む。
そして、一言も喋らない。
もちろん、私も話しかけたりしない。

 ほんの一杯だけの[STRAIGHT]、その一時が彼の憩いの時間なのかも知れない。
どんな人生を送っているのか、家族が居るのか、仕事は何か。
何も知らないし、何も聴かない。

 それでいいのだ。こんな酒場では、お客さまがくつろげればいい。
ある人にとっては喋ることかも知れない。
しかし、彼は黙ってここにいることがくつろげることなのだろう。
きっと、人には語り尽くせないものがあるのではあるまいか。

 彼は、最後にひっそりと微笑んで帰る。
この週の終わりにこの酒場に来て、一杯だけの[STRAIGHT]。
それが彼の人生の全てなのかも知れないし、ほんの一部分かも知れない。それは、彼だけが知ることなのだ。

 彼が帰ると、私は店を閉める。
ドアに[CLOSE]を下げ、鍵をかける。
そして、自分も一杯だけ[STRAIGHT]を飲んでみる。
決して、彼のことを思って飲むわけではない。
自分の1週間に乾杯だ。もう、土曜日も明け方に近い。

 明日は、晴れるだろうか...