彼と彼女の Pale Ale [2006/06/25・Vol.01 グラス]



ビールのグラス...

 1974年の夏の始め、僕は海沿いのドライブインのテラスで海を眺めていた。
 梅雨があけて間もないその日、ようやく青い空がのぞいていた。僕は小ぶりのグラスに、ペール・エールをそそぐ。こんなに色の濃いビールは、夏に似合わないかも知れない。
 色だけでなく味も濃いこのビール、酒屋さんでも滅多にお目にかからないが、このドライブインのオーナーのお気に入りなのだろうか。
 去年の冬、初めてここに来たとき、何となく珍しくて注文してみた。それから、この場所と共に僕のお気に入りとなった。

 遅れてやってきた彼女は、白いペンキで塗られた木の椅子に座ると、ごく自然に僕のグラスに手を伸ばした。
 美味しそうにのどを鳴らして、ペール・エールを飲む。まだ、キスだってしたことがないのに。それどころか、手を繋いだこともなかったことに気がついた。
 僕は、決して奥手なわけではない。むしろ、歳の離れた彼女に、とまどっていたのかも知れない。
 心の中で、「間接キスに乾杯!」と、子供のように呟いた。