Short Short[005/11/23・Vol.03 君を待っている]



いつまでだってかまわないぜ...

 疲れ果てたぼくは、都会を後にした。この山裾の古い民家に暮らし初めて、どのくらいの夏と冬を過ごしただろう。
 北陸のどんよりとした冬の空が、以外にもぼくの心を癒していった。何十年、この暖炉は人々の生活を見続けてきたのだろうか。いまもぼくは火をくべて、きみを待っている。

 きっと、きみはまた新しい恋をして、幸せに暮らしているのかも知れないね。それなら、それが一番いいことだ。
 でも、いつかひとりになったとき、何かに寄りかかりたくなったとき、思い出してくれたらいい。ぼくが、ここにいることを。

 ぼくは晴れた日には、裏山の神社の石段を登る。そこから遙か日本海を見渡すと、見えるものがある。それは目に見えるものではなくて、心に写るものだ。
誰かが言っていた、
 「男に見えて、女に見えないもの」
かも知れない。
そんなことを言うと、きみはきっと、
 「女に見えて、男に見えないものもあるわ」
と言うだろう。

 そして、ぼくはきみとの生活を思い出す。あの頃のぼくらは、若すぎたのかも知れないね。お互いを思いやっているつもりでも、どこかで傷つけていったのだろう。
 そんな風に考えるのは、年齢のせいだけだろうか。

 また、冬が来る。日本海の荒波は、雪も音もかき消してしまう。そんな内灘の海岸をひとり歩いてみる。いつか、きみと歩いたことを思い出しながら。
 そんな時、吹きつける風の寒さとは裏腹に、ぼくの心は温かくなる。そう、今でもきみを待っている。
 いつまでだって、かまわない。



■君を待っている --佐野元春--

寄りかかる ところもなく
ひとりの夜に ふるえているならば
過ぎたことは すべて忘れて
いつでもここに 伝えてほしい
昔のままのその声で

だれのことも 信じられず
ひとりの夜に おびえているならば
過ぎたことは すべて忘れて
いつでもここに 伝えてほしい
昔のままのその声で

夏が来て 冬が来て
新しい愛に あてがはずれたなら
思い出して ここにいることを
暖炉に火をくべて 君を待っている
いつまでだってかまわない

暖炉に火をくべて 君を待っている
いつまでだってかまわないぜ