五木寛之[2003/06/18・Vol.19 狼のブルース]



ハードボイルド、巻き込まれる主人公。

 解説に、こんなことが書いてある。
大藪晴彦の場合…復讐する個人の能動性を描く。
五木寛之の場合…戦争・革命・国家的謀略といったことに巻き込まれていくのを民衆の常態とみなし、主人公と主人公に仮託された作者の視点を、巻き込まれる側に置く。

 これは「戒厳令の夜」などを読んでも当てはまることで、主人公達は大きな流れに巻き込まれていく。
 しかし、ただ単に流されていくのではなく、その前には明確な意志があり、自分で方向性を決めながらも、巻き込まれていくのだ。
その根底には、彼の引き上げ組と言う経験が強く尾を引いているのだと思う。

 さて、この小説の主人公の名前は「黒沢竜介」。「竜さん」と言うのは五木が好んで使う名前であるが、「黒沢」も艶歌シリーズに出てくる名前だ。あちらはもういい年であるが、どうも彼(黒沢正信)の若い時を彷彿とさせるのが、「黒沢竜介」である。
 そして、その友人であり相棒であるのが「露木」である。この名前も「海峡物語」では「露木隆一」として主人公の一人になっている。
蛇足になるが、今読んでいる「裸の町」の主人公は「津上卓也」で、「艶歌」の主人公と同姓同名だ。

 五木に馴染んでない人には「なぁんだ」と思うかもしれないが、ファンにとっては同じ前が出て来るというのはうれしいものである。
ことに主人公ではない脇役が気に入った場合、その人主人公にして小説を書いてくれればいいのにと思うことがしばしばある。
 五木からははずれるが、高橋克彦も名前にはこだわりがあるようだ。浮世絵シリーズも主人公が変わっていく。するとその登場人物が出ている小説にはついつい手が出てしまう。なかなかうまい販売戦略であるともいえるだろう。

 まったく本の内容にふれていないのは申し訳ないのが、それは次回に乞うご期待?



Data:狼のブルース
講談社文庫、昭和51年8月15日発行
昭和51年→1976年